(2512のちっちゃいネタ詰め)
(お題をお借りしました)
・そういうところも可愛いけれど
「遅くなる、とは言っておいたよ」
こちらに背を向けて、ふとんにくるまって、きっと唇をつんと尖らせてふて寝の態勢。
ひとりが嫌いな子だと分かってはいても、そうそう早くは帰れないし、代わりに誰かをやるのも嫌だ。この子におかえりなさいと言われるのは、僕一人でなければ嫌だ。
今日だって待っていたのだろう。帰りを待ち望むくせに、なんか慣れない、と照れくさそうに玄関扉を開けた僕におかえりと言う。
それを聞かない限りは、どうしたって頭が切り替えられない。いつの間にかそうなってしまった。
「ねえ、あなた、そういうところも可愛いけれど」
ずいぶん遅くなったけれど、ただいまと言うのはあなたにだけなのだから。
おかえり、そのほんの四文字の魔法を、僕にかけてはくれないかな。
「…ずるいぞ、きょーや。……おかえり」
ああ良かった、これで今日もよく眠れそうだ。
・…あんまり見んなよ
恭弥は、オレを見るのが好きらしい。
くせだらけの髪に触れ、すこし耳をなぞり、あごの輪郭を辿る指先に捕らえられる。
そうして、まっ黒な恭弥のひとみは、オレのひとみをじぃっと射抜く。
恭弥のひとみは、黒々と艶めいていて、いつも何だかむずむずとした気分にさせられる。
「…あ、あんま見んなよっ」
耐えられなくってそう言ったのに、
「だって、あなたのひとみが綺麗だから」
ふわりと笑う恭弥に、やっぱり今日も勝てなかった。
・色付いた桃色の頬
イタリアの子だというのに、この子はあいさつのキスを未だに恥ずかしがる。
頬に軽く触れた唇は、この子が背伸びをしたぶんだけ遠ざかり、ひどく名残惜しい。
あいさつのキスを返そうとすこし屈み込むと、びくっと身をかたくするのは、緊張と照れのあかし。
白い肌のうえに朱が乗って、まだ幼さを残すふっくらとした頬は、ほんとうに桃のようなかぐわしさで。
ついつい齧りついてみたら、うひゃあ、と色気のない悲鳴が聞こえた。
おいしそうだとは思うけれど。今はまだ摘み食いだけにするべきなのかな。
・ねぇ、こっちをむいて
体じゅうを傷だらけにするのは、もう日課のようなものだった。
なんにもないところで転ぶし、転んだ先には片付け忘れたスプーンがあるし(フォークとかナイフじゃなくてよかった)、転んだ拍子に近くの棚をすっ倒したし(棚は恭弥が止めてくれた。中身があんまりない棚でよかった)。
腕に足に顔に、べたべたと絆創膏を貼る、それももう慣れたもので、特に顔なんかは鏡を見なくても貼れるようになった。
絆創膏だらけの顔が、みっともなくて、情けなくって、恥ずかしくって見れないという理由もある。
だけど恭弥は、そんなのお構いなしにオレのことをじっと見る。顔をみせてよ、の言葉にぷいっと横を向いたオレの頬を、ひとさし指でつんとつついて、
「ねえ、こっちをむいて、僕の可愛いディーノ」
その一言で、オレはいつだって陥落するのだ。
・精一杯に差し出された、震える手
初対面では会話もなかった。
二回目に会った時ようやく氏素性を覚えた。初対面でそういえば誰だかが紹介していた気がするけれど、その時はかけらも興味がなかった。
三回目と四回目は、ひとことふたこと、当たり障りない話をした。今日は天気がいいな。明日はどうか知らないけれどね。返答ともつかない言葉を、綺麗な金髪の子どもは笑顔で受け取った。
五回目を迎えた時、すこし鍛えてやってくれねーかとあの赤ん坊が言った。ええ、と驚いた声をあげた子どもの、それでも何かを期待しているようなはちみつ色のひとみが印象的だった。
六回目は、もうこの家だ。棲み処のひとつに多少の家具を買い足して、暮らすに困らない程度の家にした。先に家に入っていた子に、ぎこちない様子でおかえりなさいと言われ、しばらく何も言えなかったのを覚えている。
七回目、おかえりなさいの次に、はじめて名前を呼ばれて、心のどこかがぞわりとした。嫌悪感はなかった。ない事が不思議だった。嫌っていたはずの他人との関わりを、断ち切ろうと思えないのが不思議だった。
八回目、ただいまと返してみたら、やけに嬉しそうに笑うので、ふとその髪を撫でてみたくなった。ふわふわの金髪に埋めた指を、そろりそろりと確かめるように子どもの手が伸ばされる。こぼれ落ちそうなほど見開いたはちみつ色のひとみが、何故かと問うようにこちらを見ていた。
九回目。
「お、おかえり…なさい、恭弥」
背伸びをして、頬に唇をかすめた子どもの、まだ震える指先を感じながら。
どうしようもない独占欲と、焦げ付きそうに膨れ上がる劣情とを、抑えきれる自信はなかった。
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本当はもうちょっとEROく書きたかったなんていえない(書いてる)
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